養育費を払わない場合、相手の財産を差し押さえが可能ですか?

養育費の約束があったにもかかわらず、相手が支払いを怠っている。あなたは今、子どもの将来のために必要な資金を確保できず、途方に暮れているかもしれません。しかし、法律はあなたと子どもを守る手段を用意しています。それが「強制執行」による財産の差し押さえです。

養育費を払わない相手の財産を差し押さえることは、法的に認められた正当な権利です。裁判所を通じた手続きによって、相手の給与や預金、さらには不動産などから未払いの養育費を強制的に回収できます。ただし、この手続きには明確な条件や必要書類があり、相手の財産情報を把握しておく必要があります。

本記事では、養育費の差し押さえに関する法的な仕組みから、具体的な手続きの流れ、注意すべきポイントまで、実務に即した情報を網羅的に解説します。あなたが次に取るべき行動を明確にし、確実に養育費を回収するための知識を身につけていただけるはずです。

養育費の差し押さえとは

養育費の差し押さえとは、養育費の支払い義務がある相手が約束を守らない場合に、裁判所の手続きを通じて相手の財産から強制的に養育費を回収する法的措置です。これは民事執行法に基づく「強制執行」の一種であり、債権者であるあなたが債務者である相手の財産に対して実行します。

多くの離婚事案において、養育費の取り決めは口約束や私的な合意書で済ませてしまうケースがありますが、それだけでは差し押さえはできません。差し押さえを実行するには、家庭裁判所や地方裁判所が関与した正式な法的文書が必要になります。

差し押さえの最大の特徴は、相手の同意がなくても強制的に回収できる点にあります。通常の支払い督促や交渉では埒が明かない場合でも、裁判所の命令によって第三者(勤務先の会社や金融機関)から直接取り立てが可能です。これにより、相手が意図的に支払いを拒否していても、法的強制力をもって養育費を確保できるのです。

また、養育費の差し押さえには独自のメリットがあります。一般的な債権回収と異なり、将来分の養育費も継続的に差し押さえできるという点です。例えば、給与を差し押さえる場合、一度手続きを行えば、毎月の給与から自動的に養育費相当額が天引きされ、あなたに支払われる仕組みが構築されます。

ただし、差し押さえは法的手続きであるがゆえに、一定の条件を満たし、適切なプロセスを踏む必要があります。次章以降で、差し押さえの対象となる財産や必要な条件について詳しく見ていきましょう。

差し押さえの対象となる財産

相手の財産を差し押さえる際、どの財産が対象になるのかを正確に理解しておくことは極めて重要です。法律上、差し押さえ可能な財産にはいくつかの種類があり、それぞれに特性と制約があります。

給与・賞与の差し押さえ

給与の差し押さえは、養育費回収において最も効果的かつ一般的な方法です。相手が会社員や公務員として定期的な収入を得ている場合、この手段が最優先で検討されます。

養育費の場合、給与の手取り額の2分の1まで差し押さえることができます。これは通常の債権(借金など)の場合の差し押さえ上限(手取りの4分の1)よりも大幅に有利な条件です。法律が子どもの権利を特に保護していることの表れと言えるでしょう。

例えば、相手の月給の手取り額が30万円であれば、最大15万円まで差し押さえが可能です。賞与(ボーナス)についても同様に2分の1まで差し押さえできます。

さらに重要なのは、給与差し押さえは未払い分だけでなく将来分も継続的に回収できる点です。一度差押命令が出れば、相手が退職するまで毎月自動的に養育費が天引きされ、あなたの口座に振り込まれる仕組みになります。毎月督促する手間やストレスから解放されるわけです。

ただし、給与差し押さえを実行するには相手の勤務先を正確に特定する必要があります。勤務先が不明な場合や、相手が自営業・フリーランスの場合は、別の財産を狙う必要が出てきます。

預金口座の差し押さえ

預金口座の差し押さえは、相手にまとまった貯蓄がある場合に有効な手段です。給与と異なり、預金の差し押さえには金額の制限がありません。口座に100万円あれば全額差し押さえることも法律上可能です。

預金差し押さえのもう一つの利点は、金融機関名と支店名さえわかれば、口座番号が不明でも手続きできる点です。相手が以前使っていた銀行の支店を覚えていれば、そこを指定して差し押さえの申立てができます。

ただし、預金差し押さえには重要な注意点があります。差し押さえはその時点で口座にある残高のみが対象となり、給与のように継続的な回収はできません。つまり、差押命令が相手に届く前に口座から資金を引き出されてしまうと、回収できる金額はゼロになってしまいます。

そのため、預金差し押さえは給与差し押さえと併用するか、相手の給与振込日直後を狙うなど、タイミングを計る戦略が求められます。また、複数の金融機関に口座を持っている可能性を考慮し、同時に複数の支店を対象に申し立てるケースもあります。

その他の財産

給与や預金以外にも、差し押さえの対象となる財産は多岐にわたります。

  • 現金については、66万円を超える部分が差し押さえの対象です。66万円までは「生活に必要な最低限度の財産」として法律で保護されています。ただし、相手の自宅で現金を差し押さえるには執行官による立ち入りが必要になるため、実務上のハードルは高めです。
  • 自動車も差し押さえの対象になります。ただし、ローンが残っている車は所有権が留保されているため差し押さえできません。完済済みで、かつ市場価値のある車両であれば、差し押さえて競売にかけることで換価できます。
  • 不動産(土地・建物)は高額な財産であるため、大きな未払い額を回収できる可能性があります。しかし、住宅ローンが残っていて債務超過(オーバーローン)の状態だと、差し押さえても買い手がつかず実質的な回収は困難です。不動産の差し押さえは登記簿謄本で担保状況を事前に確認することが不可欠です。
  • その他、宝石・貴金属・美術品なども差し押さえ対象ですが、所在と価値の特定が難しいため、実際に実行されるケースは限られています。

差し押さえる財産を選ぶ際は、確実性・回収額・手続きの容易さのバランスを考慮する必要があります。多くの場合、給与を第一選択肢とし、補完的に預金や他の財産を検討するのが現実的なアプローチです。

養育費の差し押さえに必要な条件

養育費の差し押さえは誰でも自由にできるわけではありません。法的手続きである以上、明確な要件を満たす必要があります。ここでは差し押さえを実行するための必須条件について解説します。

債務名義の有無

差し押さえを行うための絶対的な前提条件、それが債務名義の存在です。債務名義とは、相手に養育費の支払い義務があることを公的に証明する法的文書のことを指します。

具体的には以下のような文書が債務名義に該当します:

  • 調停調書:家庭裁判所の調停で合意した内容をまとめた文書
  • 審判書:裁判所が養育費について判断を下した文書
  • 和解調書:訴訟の中で和解が成立した際に作成される文書
  • 判決書:裁判で養育費の支払いが命じられた判決文
  • 公正証書(執行認諾文言付き):公証役場で作成し、「強制執行を受けても異議を述べない」旨の条項がある文書

これらの文書がなければ、どれほど養育費の約束が明確でも、差し押さえはできません。例えば、離婚時に夫婦間で交わした私的な合意書や、メールでのやり取り、口約束だけでは債務名義として認められないのです。

もしあなたが現時点で債務名義を持っていない場合は、まず家庭裁判所に養育費請求調停を申し立て、調停調書を取得する必要があります。相手が調停に応じない場合は、審判手続きに移行し、裁判所が職権で養育費を定めます。

債務名義の取得には時間がかかることもありますが、これがなければ差し押さえという法的強制力を行使できません。逆に言えば、債務名義さえあれば、相手がいくら拒否しても強制執行が可能になるわけです。

相手の住所と財産の把握

債務名義があっても、それだけでは差し押さえはできません。具体的にどの財産を差し押さえるかをあなた自身が特定し、裁判所に申し立てる必要があります。

まず必要なのが相手の現住所です。強制執行の申立書には債務者(相手)の住所を正確に記載しなければなりません。住所が不明だと、そもそも申立てが受理されないケースもあります。

相手が引っ越して住所がわからなくなった場合は、住民票や戸籍の附票を取得して現住所を調査できます。あなたが子どもの親権者であれば、正当な理由があるとして、相手の住民票等を取得することが認められるケースが多いです。

さらに重要なのが財産情報の特定です。差し押さえの申立てには、以下のような具体的情報が求められます:

  • 給与差し押さえの場合:勤務先の会社名・所在地
  • 預金差し押さえの場合:金融機関名・支店名
  • 不動産差し押さえの場合:不動産の所在地・地番

「相手のどこかの財産を差し押さえてください」という包括的な申立ては認められません。あなたが「この会社の給与を差し押さえます」「この銀行のこの支店の口座を差し押さえます」と具体的に指定する必要があるのです。

相手の勤務先が不明な場合、完全に手詰まりになるわけではありません。2020年の民事執行法改正により、財産開示手続き第三者からの情報取得手続きという制度が強化されました。これにより、裁判所を通じて相手の勤務先情報や預金口座情報を取得できる道が開かれています。

ただし、これらの手続きにも要件があり、時間もかかります。可能であれば、離婚前や養育費取り決め時点で相手の財産情報をできるだけ把握しておくことが、将来の差し押さえをスムーズにする重要なポイントです。

強制執行による差し押さえの流れ

実際に養育費の差し押さえを行う際の具体的な手続きの流れを見ていきましょう。各段階で必要となる作業や注意点を理解しておくことで、スムーズな手続きが可能になります。

ステップ1:事前の財産調査

差し押さえ手続きの成否は、この事前準備段階でほぼ決まると言っても過言ではありません。前述のとおり、差し押さえる財産を具体的に特定するのは申立人であるあなたの責任です。

まず優先すべきは勤務先情報の把握です。相手が会社員であれば、給与差し押さえが最も確実かつ継続的な回収手段となります。離婚前であれば源泉徴収票や給与明細から会社名を確認できますし、別居後でも子どもとの面会時の会話や、SNSの投稿などから勤務先を推測できることもあります。

勤務先が不明な場合は、前述の財産開示手続きを利用する方法があります。これは裁判所が相手を呼び出し、財産状況を報告させる手続きです。正当な理由なく出頭しなかったり虚偽の報告をした場合には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金という刑事罰が科される可能性があります。

さらに2020年の法改正で導入された第三者からの情報取得手続きも活用できます。これは裁判所から市町村や年金事務所に照会をかけ、相手の勤務先情報を取得する制度です。また、銀行等の金融機関に対しても預金口座の有無や残高情報の照会が可能になりました。

これらの制度を利用するには債務名義が必要であり、一定の手数料もかかりますが、相手が財産を隠している場合には有効な武器となります。

ステップ2:裁判所への申立て

差し押さえる財産が特定できたら、次は裁判所への申立てです。申立て先は、給与や預金などの債権を差し押さえる場合は相手の住所地を管轄する地方裁判所になります。不動産の場合は、その不動産の所在地を管轄する地方裁判所です。

申立てには以下の書類が必要になります:

  • 債権差押命令申立書:差し押さえる財産や金額を記載した申立書
  • 債務名義の正本:調停調書や判決書など
  • 送達証明書:債務名義が相手に送達されたことを証明する書類
  • 執行文:債務名義に執行力があることを証明する文書(判決や審判の場合)
  • 資格証明書:相手の勤務先が法人の場合、その会社の登記事項証明書

申立書には、未払い養育費の金額や期間、差し押さえる財産の詳細(勤務先の会社名・所在地、銀行名・支店名など)を正確に記載します。書類に不備があると補正を求められ、手続きが遅れる原因になるため、注意深く準備する必要があります。

申立てには手数料(収入印紙)と郵便切手が必要です。債権差し押さえの場合、手数料は請求債権額に応じて異なりますが、養育費の場合は比較的少額(4,000円程度)で済むケースが多いです。

ステップ3:差押命令と取り立て

裁判所が申立書を審査し、要件を満たしていると判断すれば、差押命令が発令されます。この命令は、差し押さえの対象となる第三債務者(給与差し押さえなら勤務先の会社、預金差し押さえなら銀行)と、債務者である相手の両方に送達されます。

給与差し押さえの場合、命令を受け取った会社は、相手の給与から差押額を天引きし、あなたに直接支払う義務を負います。会社がこれを拒否したり無視すると、会社自体が支払い義務を負うことになるため、通常は命令に従います。

命令送達後、1週間の期間が経過すると、あなたは第三債務者から直接取り立てができるようになります。この1週間は相手に異議申立ての機会を与えるための期間です。

預金差し押さえの場合、銀行は命令を受け取った時点で口座を凍結し、差押額を確保します。その後、あなたが銀行に対して「取立て」を行うことで、差し押さえた預金があなたの口座に振り込まれます。取立ての具体的な方法は金融機関によって異なりますが、通常は取立書類と身分証明書等を持参して手続きします。

給与差し押さえの大きなメリットは、一度の手続きで将来分も継続的に回収できる点です。相手が退職したり転職しない限り、毎月自動的に養育費が天引きされ続けます。あなたは改めて申立てをする必要がありません。

ただし、差し押さえた金額が未払い養育費の総額に達したら、速やかに「取下書」を裁判所と第三債務者に提出し、差し押さえを解除する必要があります。必要以上に差し押さえを続けると、後で返還を求められる可能性があります。

差し押さえが難しいケース

法律上は差し押さえが可能でも、実際には回収が困難なケースも存在します。そうした状況とその対処法について理解しておくことは、現実的な判断を下すために重要です。

相手の所在不明または資力不足

差し押さえが困難になる最も典型的なケースが、相手の所在がわからない場合です。住所不明だと差押命令を送達できず、手続き自体が進みません。

住民票を移さずに転居した場合や、意図的に居場所を隠している場合など、所在調査が難航するケースは少なくありません。こうした場合、住民票の除票や戸籍の附票を辿って現住所を調査する必要がありますが、それでも判明しないこともあります。

最終的な手段として、家庭裁判所に「履行勧告」や「履行命令」を申し立てる方法があります。履行勧告は家庭裁判所の調査官が相手に連絡を取り、支払いを促す制度です。強制力はありませんが、相手との連絡ルートを確保する手がかりになることがあります。

もう一つの深刻な問題は相手に差し押さえるべき財産がない場合です。無職で収入がなく、預金もなく、不動産などの資産も持っていない状態では、いくら債務名義があっても回収は事実上不可能です。

相手が生活保護を受けている場合、生活保護費自体は差し押さえが禁止されています。また、年金についても国民年金や厚生年金の一部は差し押さえ禁止財産とされています(ただし、口座に振り込まれた後の預金としてなら差し押さえ可能という解釈もあり、ケースバイケースです)。

資力がない相手に対しては、差し押さえよりも養育費の減額調停を逆に申し立てられる可能性もあります。相手の経済状況が著しく悪化した場合、養育費の減額が認められることがあるためです。

こうした状況では、養育費の立替払制度の利用も検討すべきです。自治体によっては、養育費が支払われない場合に一時的に立て替えてくれる制度を設けているところがあります(兵庫県明石市など)。ただし、この制度はまだ全国的に普及しているわけではありません。

債務名義がない場合の対処法

離婚時に養育費の取り決めをしたものの、公正証書や裁判所の調停を経ずに私的な合意だけで済ませてしまった場合、債務名義がないため直ちに差し押さえはできません。

この場合、まず家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てる必要があります。調停では、過去の合意内容や相手の収入状況、子どもの生活実態などを考慮して、適切な養育費額が協議されます。

調停で合意が成立すれば調停調書が作成され、これが債務名義となります。合意が成立しない場合は自動的に審判手続きに移行し、裁判所が職権で養育費を決定します。審判書も債務名義として効力を持ちます。

調停申立ての際には、既に発生している未払い分についても請求できます。ただし、過去に遡って請求できる期間には限界がある点に注意が必要です。一般的には、調停申立て時から過去5年分程度が目安とされていますが、それ以前の未払い分を請求するのは難しいケースが多いです。

そのため、養育費の不払いが始まったら、できるだけ早く法的手続きに着手することが重要です。時間が経つほど回収できる金額が減り、証拠も散逸してしまいます。

また、今後離婚を考えている方は、必ず公正証書(執行認諾文言付き)を作成するか、裁判所の調停を利用することを強くお勧めします。わずかな手間と費用で将来の大きなトラブルを回避できます。

差し押さえを行うデメリットと注意点

養育費の差し押さえは法的に認められた正当な権利ですが、実行する前に知っておくべきデメリットや副作用も存在します。

まず最も大きな懸念は相手との関係悪化です。差し押さえは強制的な手段であるため、相手は屈辱や怒りを感じる可能性が高く、それまで以上に関係がこじれることは避けられません。

子どもと相手との面会交流が続いている場合、差し押さえをきっかけに面会を拒否されるリスクもあります。法律上、養育費の支払いと面会交流は別問題とされていますが、感情的には連動しやすく、子どもが板挟みになって傷つく可能性もゼロではありません。

給与差し押さえの場合、相手の勤務先に養育費不払いの事実が知られることになります。差押命令は会社に送達されるため、経理担当者や人事部門、場合によっては上司にも状況が知られます。

多くの企業では給与差し押さえ自体が直接の懲戒事由にはなりませんが、相手の職場での立場や評価に影響を与える可能性は否定できません。相手がそのことを理由に退職してしまうと、継続的な回収ができなくなるだけでなく、新たな勤務先を特定するまで回収が途絶えることになります。

また、差し押さえには一定のコストと手間がかかります。裁判所への申立てには手数料や郵送費がかかりますし、書類の準備にも時間と労力を要します。弁護士に依頼すればさらに費用が膨らみます。

預金差し押さえの場合、タイミングを逃すと空振りに終わるリスクがあります。差押命令が送達される前に相手が預金を引き出してしまえば、回収できるものはありません。その場合、手数料だけがかかって成果ゼロという結果になります。

過剰な差し押さえにも注意が必要です。必要以上に差し押さえてしまうと、後で返還しなければならないだけでなく、相手から損害賠償を請求される可能性もあります。差し押さえる金額は、未払い養育費の総額と、手続き費用の範囲に留めるべきです。

さらに、差し押さえを実行すると相手が養育費減額調停を申し立ててくる可能性もあります。経済状況の悪化を理由に減額を求められ、結果的に当初の約束よりも少ない金額しか受け取れなくなるケースもあり得ます。

こうしたデメリットを踏まえると、差し押さえは「最後の手段」として位置づけ、まずは話し合いや履行勧告などの穏やかな方法を試みるのが賢明です。ただし、相手に誠意が全く見られない場合や、長期間にわたって不払いが続いている場合は、躊躇せず法的措置に踏み切るべきです。子どもの権利を守るために必要な行動なのですから。

弁護士に依頼するメリットと費用

養育費の差し押さえは理論上、あなた自身でも手続き可能ですが、実際には専門的な知識と経験が求められる複雑なプロセスです。弁護士に依頼することのメリットと、それにかかる費用について見ていきましょう。

弁護士に依頼する最大のメリットは、手続きの成功率が大幅に上がることです。申立書の書き方一つとっても、法的要件を満たしているか、記載に不備がないかなど、素人には判断が難しいポイントが多数あります。弁護士であればこうした点を的確に押さえ、一発で受理される書類を作成できます。

財産調査の面でも、弁護士の専門性が活きます。弁護士会照会制度を使えば、あなた個人では取得できない情報(勤務先や口座情報など)を合法的に入手できる可能性があります。また、どの財産を優先的に狙うべきか、複数の差し押さえをどう組み合わせるかといった戦略的判断も、経験豊富な弁護士なら的確に行えます。

時間と精神的負担の軽減も見逃せないメリットです。裁判所への出頭、書類作成、第三債務者とのやり取りなど、差し押さえ手続きには膨大な事務作業が伴います。仕事や育児で忙しいあなたがこれらすべてを自分で行うのは、現実的に困難でしょう。弁護士に任せれば、あなたは必要最小限の協力をするだけで済みます。

相手が法的に対抗してきた場合の対応も、弁護士がいれば安心です。相手が債務の存在を争ったり、差し押さえに対して異議を申し立ててきたりした場合、法的な反論や追加手続きが必要になります。こうした場面では専門家のサポートが不可欠です。

では、弁護士費用はどのくらいかかるのでしょうか。

費用体系は法律事務所によって異なりますが、一般的な目安は以下のとおりです:

  • 相談料:30分5,000円〜1万円程度(初回無料の事務所も多い)
  • 着手金:10万円〜30万円程度
  • 成功報酬:回収額の10〜20%程度

例えば、未払い養育費が100万円あり、弁護士に依頼して全額回収できた場合、着手金20万円+成功報酬15万円(回収額の15%)で合計35万円程度の費用がかかる計算になります。

この金額を高いと感じるか妥当と感じるかは人それぞれですが、自分で手続きして失敗するリスクや、時間と労力のコストを考えれば、決して不合理な投資ではありません。

費用を抑えたい場合は、法テラス(日本司法支援センター)の民事法律扶助制度を利用する方法があります。収入が一定基準以下であれば、弁護士費用の立替払いを受けられます。この場合、費用は分割で返済することになりますが、一時的な負担は大幅に軽減されます。

また、自治体によっては無料の法律相談を定期的に実施しているところもあります。まずはこうした制度を利用して、あなたのケースで差し押さえが現実的かどうか、専門家の意見を聞いてみるのも良いでしょう。

弁護士を選ぶ際は、離婚・家事事件に強い事務所を選ぶことが重要です。養育費の差し押さえは特殊な分野であり、経験の有無で結果が大きく変わります。ホームページで実績を確認したり、初回相談で具体的な質問をして、その分野に精通しているか見極めましょう。

費用面での不安がある場合は、相談時に明確に伝えることが大切です。多くの弁護士は依頼者の経済状況を考慮し、分割払いに応じたり、費用を抑える方法を提案してくれます。遠慮せずに相談することをお勧めします。

まとめ

養育費を払わない相手の財産を差し押さえることは、法律で認められたあなたの正当な権利です。子どもの健全な成長のために必要な養育費を確保することは、親としての責務を果たすために不可欠な行動と言えます。

差し押さえを成功させる鍵は、債務名義の確保相手の財産情報の把握です。調停調書や公正証書などの債務名義がなければ、どれほど明確な約束があっても強制執行はできません。また、給与や預金など、具体的にどの財産を差し押さえるかを特定するのはあなたの責任です。

給与差し押さえは手取りの2分の1まで可能で、将来分も継続的に回収できるため、最も効果的な方法です。預金差し押さえは金額制限がなく、口座番号不明でも実行できますが、タイミングが重要になります。

手続きは複雑で専門知識を要するため、多くの場合、弁護士に依頼するのが現実的です。費用はかかりますが、成功率の向上や時間・労力の節約を考えれば、合理的な選択と言えるでしょう。経済的に厳しい場合は法テラスの利用も検討してください。

相手との関係悪化や勤務先への通知といったデメリットも存在しますが、子どもの権利を守るためには、時に毅然とした態度が必要です。まずは話し合いや履行勧告などの穏便な方法を試み、それでも改善が見られなければ、躊躇なく法的措置に踏み切るべきです。

養育費の不払いは、単なる金銭問題ではなく、子どもの生活と将来に直結する重大な問題です。一人で抱え込まず、専門家の力を借りながら、あなたと子どものために最善の行動を取ってください。法律はあなたの味方です。

藤上 礼子のイメージ
ブログ編集者
藤上 礼子
藤上礼子弁護士は、2016年より当事務所で離婚問題に特化した法律サービスを提供しています。約9年にわたる豊富な経験を活かし、依頼者一人ひとりの状況に真摯に向き合い、最適な解決策を導き出すことを信条としています。ブログ編集者としても、法律知識をわかりやすくお伝えし、離婚に悩む方々の不安を少しでも和らげたいと活動中です。
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