証拠がない場合でもDVで離婚できる?被害者が知るべき離婚成立への具体的な方法と対処法

あなたはパートナーからの暴力に苦しんでいるのに、写真も診断書も録音も何一つ残していない。警察に相談したこともなく、友人に打ち明けたこともない。ただ毎日、息を殺して生活している。そんなあなたは「証拠がないから離婚なんて無理」と諦めかけているかもしれません。

しかし実際には、物的証拠がなくてもDVを理由に離婚を成立させる方法は存在します。日本の裁判所は被害者の証言や状況証拠も重要な判断材料として扱っており、あなたの苦しみを正当に評価する仕組みがあるのです。

DVとは?離婚原因として認められる理由

DVは配偶者や恋人からの暴力行為を指し、民法770条1項5号の「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当します。あなたが受けている苦痛は法的保護の対象となり、離婚請求の正当な理由として認められます。

身体的・精神的・経済的DVの種類

身体的DVは殴打、蹴る、物を投げつける、髪を引っ張るなどの直接的な暴力行為を含みます。あなたの腕にできたあざ、病院の診断書、怪我の写真が典型的な証拠となります。2022年の内閣府調査では配偶者からの身体的暴力を受けた女性は15.9%、男性は11.1%に達しています。

精神的DVは暴言、無視、人格否定、行動制限などの心理的虐待を指します。「お前は価値がない」「誰もお前なんか相手にしない」といった言葉の暴力、友人との交流を禁じる、スマートフォンを勝手にチェックする行為が該当します。精神科の診断書やカウンセリング記録が重要な証拠となります。

経済的DVは生活費を渡さない、借金を強要する、仕事を辞めさせるなどの経済的支配を意味します。あなたの預金通帳を取り上げる、クレジットカードを勝手に使う、家計の管理を一切させない行為が典型例です。銀行の取引履歴や給与明細が証拠として機能します。

法的に認められた離婚理由としてのDV

裁判所はDVを「婚姻関係の破綻」の明確な証拠として扱います。東京地方裁判所の2021年統計によると、DV関連の離婚訴訟の約78%で離婚が認められています。あなたの証言だけでも裁判官は慎重に検討し、周辺事情と合わせて総合的に判断します。

保護命令の発令歴があれば離婚理由として極めて有力な証拠となります。配偶者暴力防止法に基づく保護命令は年間約2,300件発令されており、裁判所がDVの存在を認定した公的記録として扱われます。警察への相談記録、配偶者暴力相談支援センターの相談票も同様の効力を持ちます。

慰謝料請求も同時に認められる可能性が高く、身体的DVで100万円から300万円、精神的DVで50万円から200万円が相場となっています。あなたが受けた被害の程度、期間、後遺症の有無によって金額は変動します。複数のDVが重なる場合は500万円を超える判例も存在します。

証拠がない場合でもDVで離婚は可能か

DVの証拠が不足していても離婚は成立します。相手の同意があれば証拠なしで協議離婚や調停離婚が実現し、裁判では客観的証拠が重要になりますが状況証拠も考慮されます。

証拠不十分でも離婚できるケース

夫婦間の話し合いで相手が離婚に同意すれば、DVの物的証拠なしで離婚届を提出できます。配偶者がDVの事実を認めている場合、その発言自体が証拠となり裁判でも有利に働きます。

調停離婚では調停委員が夫婦の間に入って話し合いを進めるため、証拠が少なくても相手が離婚に応じる可能性があります。調停委員はあなたの証言や態度、相手の言動から総合的に判断し、双方に歩み寄りを促します。

別居期間が3年以上続いている場合、DVの直接的な証拠がなくても「婚姻関係の破綻」として離婚が認められやすくなります。別居中の生活費不払いや連絡拒否も婚姻義務違反として評価されます。

保護命令の申立てをしていた場合、その記録自体がDVの間接的な証拠となります。警察への相談記録、配偶者暴力相談支援センターの利用履歴も同様に扱われます。精神科や心療内科の通院歴があれば、診断書がなくても通院の事実がDVによる精神的苦痛の証拠として機能します。

協議離婚・調停離婚での対応方法

協議離婚では配偶者と直接話し合い、離婚条件を決定します。弁護士を代理人として立てれば、あなたは直接対面せずに交渉を進められます。離婚協議書を公正証書にすれば、養育費や慰謝料の支払いが滞った際に強制執行が可能になります。

調停離婚の申立ては家庭裁判所に申立書を提出し、収入印紙1,200円と切手代を納めます。初回調停まで約1ヶ月かかり、その後は月1回のペースで調停が開かれます。調停では夫婦が別々の待合室で待機し、交互に調停室に入って話をするため、相手と顔を合わせる必要がありません。

調停委員にDVの状況を説明する際は、具体的な日時と行為を時系列でまとめた陳述書を提出します。「2025年5月15日午後8時頃、夕食の味付けを理由に茶碗を投げつけられた」など詳細に記載します。友人や親族の陳述書も補強証拠として提出できます。

調停不成立の場合は自動的に審判移行か、あなたが離婚訴訟を提起するか選択します。訴訟では証拠の重要性が高まるため、調停段階から証拠収集を続けることが大切です。

DVの証拠として有効なもの

DVの証拠は裁判での離婚成立を左右する重要な要素です。物的証拠がなくても離婚は可能ですが、客観的な証拠があれば交渉を有利に進められます。

診断書・写真・録音などの直接的証拠

医師の診断書があなたのDV被害を最も強力に証明します。診察を受けた際、医師に暴力の原因を正直に伝え、怪我の部位・程度・治療期間を詳細に記載してもらってください。診断書には「配偶者による暴力」という文言を含めてもらうと証拠力が高まります。

怪我の写真を撮影する際は、受傷部位と顔を一緒にフレームに収めてください。スマートフォンのカメラで撮影し、日付と時刻が自動記録される設定にしておきます。青あざが濃くなる2〜3日後にも撮影し、経過を記録します。

録音・録画データは相手の同意なく取得できます。スマートフォンの録音アプリを使い、暴言や脅迫の音声を記録してください。暴力を振るわれそうな場面では、部屋の隅にスマートフォンを置いて録画します。データは複数の場所にバックアップを保存し、削除されないよう保護します。

LINE・メールでの脅迫的なメッセージもスクリーンショットで保存します。送信日時と送信者が明確に表示された状態で撮影し、証拠として整理します。

日記・相談記録などの間接的証拠

日記は継続的なDV被害を証明する重要な証拠になります。毎日同じノートに手書きで記録し、日付・時刻・場所・具体的な暴力や暴言の内容を詳細に書きます。「午後8時、リビングで夕食の味付けについて文句を言われ、茶碗を投げつけられた」といった具体的な記述が証拠価値を高めます。

警察への相談記録は公的機関の記録として高い証拠力を持ちます。110番通報した場合、通報記録が残ります。警察署の生活安全課で相談すれば、相談受理票が作成されます。被害届を提出できなくても、相談した事実が記録として残ります。

配偶者暴力相談支援センターやDV相談窓口への相談も記録に残ります。相談日時・相談内容・担当者名を控え、相談証明書の発行を依頼してください。電話相談でも通話記録が証拠となるため、相談機関名と日時をメモしておきます。

精神科や心療内科への通院記録もDVによる精神的苦痛の証拠です。カルテには症状の原因を「配偶者からの暴力によるストレス」と記載してもらい、診断書の発行を依頼します。

第三者の証言や状況証拠

家族や友人があなたのDV被害を目撃していれば、陳述書を作成してもらえます。陳述書には目撃した日時・場所・暴力の内容を具体的に記載し、署名と押印をしてもらいます。「〇月〇日、実家で夫が妻の髪を掴んで引きずる場面を目撃した」といった具体的な記述が必要です。

近隣住民の証言も有効です。怒鳴り声や物を投げる音を聞いた住民に、証言を依頼できます。マンションの管理人や管理会社への騒音相談記録も状況証拠として使えます。

子どもの学校や保育園の先生による観察記録も証拠になります。子どもが家庭内の暴力について話した内容や、親の送迎時の異常な様子が記録されている場合があります。学校のスクールカウンセラーへの相談記録も証拠として提出できます。

別居後の執拗な連絡や付きまとい行為も、DVの延長として証拠になります。着信履歴やメッセージの記録、探偵による行動調査報告書なども状況証拠として活用できます。

証拠がない場合の対処法

DVの物的証拠がなくても、あなたには離婚への道が開かれています。証拠収集と並行して、安全確保と戦略的な交渉を進めることが重要です。

今からできる証拠収集のポイント

あなたが昨夜受けた暴力の跡を、今すぐスマートフォンで撮影してください。医療機関を受診したら、診断書に「配偶者から暴力を受けた」という記載を医師に依頼します。診断書1通が裁判での決定的証拠となり、慰謝料50万円から300万円の差を生むケースもあります。

暴力の瞬間を録音・録画することは困難ですが、暴言や物を壊す音声は記録可能です。スマートフォンの録音アプリを常に起動準備しておき、危険を感じたら即座に録音を開始します。LINEの脅迫メッセージはスクリーンショットで保存し、メッセージIDが表示される画面も撮影します。

日記を今日から始めてください。「令和7年3月15日午後8時、夕食の味付けを理由に顔を平手打ちされた」という具体的記述が、後の裁判で時系列証拠として採用されます。警察署の生活安全課への相談記録は公的証拠として特に有効で、相談受理番号を必ず控えます。

友人や親族があなたの怪我を目撃した場合、その証言を文書化します。子どもの学校の先生が気づいた変化も、第三者の客観的証拠として機能します。

別居による安全確保と交渉

今夜にでも実家や友人宅への避難を検討してください。別居開始日から3年経過すると、DVの直接証拠がなくても「婚姻関係の破綻」として離婚が認められる確率が上がります。東京家庭裁判所では、3年以上の別居で約70%の離婚が成立しています

別居前に最低限の生活費3か月分(約60万円)を確保し、通帳や保険証書などの重要書類をコピーします。子どもを連れて別居する場合、学校への通学方法と安全確保策を事前に準備します。配偶者に別居先を知られたくない場合、住民票の閲覧制限申請を市区町村役場で行います。

別居中も婚姻費用を請求する権利があります。年収500万円の配偶者に対し、子ども1人を連れて別居した場合、月額8万円から12万円の婚姻費用が認められます。内容証明郵便で請求し、支払いがない場合は家庭裁判所に調停を申し立てます。

別居後の執拗な連絡や付きまといは、ストーカー規制法違反として警察に相談できます。接近禁止命令の申立ても検討し、あなたと子どもの安全を法的に確保します。

弁護士への相談の重要性

弁護士費用を心配して相談を躊躇しているなら、法テラスの無料相談を今すぐ予約してください。収入が一定基準以下の場合、弁護士費用の立替制度を利用でき、月額5,000円からの分割払いが可能です。DV案件に強い弁護士は、初回相談で証拠の有効性を判断し、あなたに最適な戦略を提示します。

弁護士が代理人となることで、配偶者と直接対面する必要がなくなります。調停や裁判の場でも、別室での手続きが可能となり、あなたの精神的負担が大幅に軽減されます。慰謝料請求額の算定や財産分与の交渉でも、弁護士の専門知識が有利な結果をもたらします

緊急性が高い場合、保護命令の申立てを弁護士が即日対応します。保護命令が発令されれば、配偶者はあなたから200メートル以内に接近できなくなり、違反すれば1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。弁護士は警察や行政機関との連携も円滑に進め、包括的な支援体制を構築します。

離婚成立後の養育費や面会交流の取り決めでも、弁護士の存在が不可欠です。公正証書の作成により、養育費の不払いに対して強制執行が可能となります。

DV離婚を進める具体的な手順

DV被害から脱出するための離婚手続きは、協議・調停・裁判の3段階で進行します。証拠の有無や相手の同意状況によって、最適な手続き方法が異なります。

協議離婚から調停・裁判への流れ

協議離婚は夫婦間の話し合いで離婚条件を決定する最も簡単な方法です。離婚届に双方が署名・押印すれば、証拠なしで即日離婚が成立します。慰謝料や養育費について合意できれば、公正証書を作成することで法的拘束力を持たせられます。

相手が離婚に応じない場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停委員2名が間に入り、月1回のペースで話し合いを進めます。申立費用は1,200円と収入印紙代のみです。調停では証拠がなくても、あなたの主張を丁寧に説明することで相手の同意を得られる可能性があります。

調停が不成立となった場合、離婚訴訟を提起します。訴訟では民法770条1項5号「婚姻を継続し難い重大な事由」としてDVを主張します。診断書、写真、録音データなどの客観的証拠が判決を左右します。

裁判期間は平均8〜12ヶ月かかり、弁護士費用は着手金30万円、報酬金30万円が相場です。別居期間が3年以上続いていれば、DVの直接的証拠がなくても婚姻関係の破綻として離婚が認められやすくなります。

慰謝料請求と相場

DV慰謝料の金額は被害の程度と継続期間で決まります。身体的DVで骨折などの重傷を負った場合、慰謝料は200〜500万円になることがあります。日常的な暴力が5年以上続いた事案では、300万円の慰謝料が認められた判例があります。

精神的DVによるうつ病や適応障害の診断がある場合、50〜200万円が相場です。医師の診断書と通院記録が慰謝料額を左右する重要な証拠となります。経済的DVで生活費を渡されなかった期間の損害も、具体的な金額を示せば請求可能です。

慰謝料請求の時効は離婚成立から3年です。離婚前に別居している場合、別居開始から6ヶ月以内であれば婚姻費用として月額8〜15万円を請求できます。相手の年収が600万円の場合、子ども1人なら月額10万円が標準額です。

慰謝料の支払い方法は一括払いか分割払いを選択できます。分割払いの場合、公正証書を作成することで給与差押えが可能になります。相手が支払いを拒否した場合、強制執行により預金口座や不動産を差し押さえられます。

親権・財産分与の考慮点

親権決定では子どもの利益が最優先されます。DVの加害者であっても、子どもへの虐待がなければ親権者になる可能性があります。あなたが主たる監護者として子どもの世話をしてきた実績があれば、親権獲得の可能性は高まります

家庭裁判所調査官が子どもの生活環境を調査し、15歳以上の子どもには意向を確認します。別居時に子どもを連れて出た場合、現状維持の観点から親権者として有利になります。面会交流は月1〜2回、数時間程度が標準ですが、DVの危険性がある場合は制限や禁止も可能です。

財産分与は婚姻期間中に築いた共有財産を原則2分の1ずつ分けます。預貯金、不動産、退職金の婚姻期間相当分が対象です。DVの有無は財産分与の割合に直接影響しませんが、慰謝料と相殺することは可能です。

住宅ローンが残る自宅は、名義変更とローンの借り換えが必要になります。年金分割は婚姻期間中の厚生年金記録を最大2分の1まで分割でき、離婚後2年以内に手続きが必要です。

まとめ

DVによる苦しみから解放されるために必要なのは完璧な証拠ではありません。あなたの安全と幸せを最優先に考え、今できる行動から始めることが大切です。

証拠が少ないと感じても、あなたの経験や感じた恐怖は決して無価値ではありません。日本の法制度はDV被害者を守るために進化し続けており、様々な支援策が用意されています。

一人で抱え込まず、専門家の力を借りることで道は必ず開けます。弁護士への相談は単なる法的手続きのサポートではなく、あなたの新しい人生への第一歩となるでしょう。

今この瞬間から、あなたには選択する権利があります。暴力のない平穏な日々を取り戻すために、勇気を持って一歩を踏み出してください。

藤上 礼子のイメージ
ブログ編集者
藤上 礼子
藤上礼子弁護士は、2016年より当事務所で離婚問題に特化した法律サービスを提供しています。約9年にわたる豊富な経験を活かし、依頼者一人ひとりの状況に真摯に向き合い、最適な解決策を導き出すことを信条としています。ブログ編集者としても、法律知識をわかりやすくお伝えし、離婚に悩む方々の不安を少しでも和らげたいと活動中です。
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