貞操義務とは?違反したときの慰謝料や離婚の可能性を実例とともに紹介

結婚生活を送るあなたにとって、パートナーとの関係で守るべき大切な約束があります。それが貞操義務です。この法的な責任は、夫婦間の信頼関係の土台となる重要な要素として、民法に定められています。

貞操義務は単なる道徳的な理想ではありません。法律上の義務として、配偶者以外の人と性的関係を持たないことを求めています。もしこの義務に違反した場合、離婚原因となるだけでなく、慰謝料請求の対象にもなる可能性があります。

貞操義務の定義と法的根拠

貞操義務は配偶者以外との性的関係を持たない法的責任です。あなたの婚姻関係における最も基本的な約束事として法律で定められています。

民法上の位置づけ

民法770条1項1号は「配偶者に不貞な行為があったとき」を離婚事由として明記しています。あなたが結婚届を提出した瞬間から、この義務が自動的に発生します。判例では「配偶者のある者が、自由な意思にもとづいて、配偶者以外の者と性的関係を結ぶこと」(最高裁昭和48年11月15日判決)と定義されています。

民法709条により不貞行為は不法行為として扱われます。あなたの配偶者が不貞行為を行った場合、慰謝料請求権が発生します。東京地裁令和2年3月判決では、不貞期間6ヶ月で慰謝料200万円の支払いが命じられました。

貞操義務違反は財産分与にも影響します。有責配偶者からの離婚請求は原則として認められません。別居期間が7年以上、未成熟子がいない、配偶者が精神的・社会的・経済的に極めて過酷な状態に置かれないという3要件を満たす必要があります。

夫婦間の義務としての意味

貞操義務は夫婦の同居義務、協力義務、扶助義務と並ぶ4大義務の一つです。あなたと配偶者の間で対等に課される双方向の義務であり、性別による違いはありません。

精神的な裏切り行為も貞操義務違反となる場合があります。キスや抱擁などの肉体的接触、継続的な密会、深夜の長時間通話やメッセージのやり取りが該当します。大阪地裁平成31年2月判決では、性交渉がなくても親密な関係を3年間継続した事案で慰謝料150万円が認定されました

貞操義務は夫婦関係が破綻するまで継続します。別居中でも正式に離婚が成立するまで義務は存続します。ただし長期間の別居により夫婦関係が完全に破綻している場合、裁判所は貞操義務違反を認めない傾向があります。破綻の判断基準は別居期間、婚姻費用の支払い状況、復縁の可能性などを総合的に考慮します。

貞操義務違反にあたる行為

貞操義務違反は配偶者との信頼関係を破壊する重大な行為です。法的には配偶者以外との性的関係が中心となりますが、その判断基準は状況によって異なります。

不貞行為として認められるケース

配偶者以外との性交渉があなたの離婚理由として認められます。ラブホテルへの出入り写真や相手の自宅での宿泊証拠があれば、裁判所は不貞行為を認定します。

性交渉の直接的証拠がなくても、複数回の密会記録やLINEでの性的なやり取りがあれば不貞と判断されることがあります。例えば、週3回以上同じ相手と深夜まで過ごしている記録や、「愛している」「離婚したら一緒になろう」といったメッセージのスクリーンショットは有力な証拠となります。

妊娠や性病の感染も不貞行為の決定的証拠です。DNA鑑定で配偶者以外の子どもと判明した場合、慰謝料は通常の100万円から300万円を超えることもあります。

風俗店の利用も状況次第で不貞行為となります。月に10回以上同じ風俗嬢を指名していた事例では、裁判所が「特定の相手との継続的な性的関係」と認定し、50万円の慰謝料支払いを命じました。

認められないケース

異性との食事やカラオケだけでは不貞行為になりません。あなたが配偶者の浮気を疑っても、肉体関係の証拠がなければ慰謝料請求は困難です。

キスやハグの現場を目撃しても、それだけでは離婚事由として弱いとされます。ただし継続的な交際が証明され、家庭生活に重大な影響を与えた場合は「婚姻を継続し難い重大な事由」として離婚が認められる可能性があります。

SNSでの親密なやり取りも、性的関係を示唆する内容でなければ不貞行為とは認められません。「好き」「会いたい」程度のメッセージでは証拠として不十分です。

別居後5年以上経過している夫婦の場合、新たなパートナーとの関係は不貞行為と認められない傾向があります。2019年の東京地裁判決では、7年間別居していた夫の交際相手への慰謝料請求を棄却しました。

一度だけの過ちも状況によっては不貞行為と認められないことがあります。泥酔状態での出来事で、その後一切の関係がない場合、裁判所は「継続性がない」として慰謝料を減額または棄却することがあります。

貞操義務違反による法的効果

貞操義務違反は法的に重大な結果を招き、あなたの婚姻生活に決定的な影響を与えます。配偶者の不貞行為を発見したとき、民法が定める具体的な救済手段があなたを守ります。

離婚原因としての取り扱い

配偶者の不貞行為を理由に離婚請求する権利が民法770条1項1号により保障されています。裁判所に離婚訴訟を提起する際、不貞行為の証拠があれば離婚が認められます。

LINEのやり取りやホテルの領収書、探偵事務所の調査報告書が決定的な証拠となります。裁判官は不貞行為の回数、期間、婚姻関係への影響度を総合的に判断します。

1回の不貞行為でも離婚原因として認定されるケースがあります。ただし有責配偶者(不貞を行った側)からの離婚請求は原則認められません。別居期間が10年以上経過し、未成年の子がいない場合に限り例外的に認められることがあります。

不貞行為の立証責任はあなたにあります。証拠収集は慎重に行い、違法な手段で得た証拠は裁判で使用できません。弁護士に相談し適切な証拠収集方法を確認することが重要です。

慰謝料請求の可能性

不貞行為による精神的苦痛に対して、配偶者と不貞相手の両方に慰謝料を請求できます。民法709条の不法行為として、両者は共同不法行為者(民法719条)となり連帯して賠償責任を負います。

慰謝料の相場は50万円から300万円です。婚姻期間20年以上で不貞期間が1年を超える場合、200万円以上の慰謝料が認められる傾向があります。不貞により離婚に至った場合は慰謝料が高額になります。

状況慰謝料相場
婚姻継続の場合50-100万円
別居に至った場合100-200万円
離婚に至った場合150-300万円

慰謝料請求権の時効は不貞の事実を知った日から3年、不貞行為から20年です。内容証明郵便で請求することで時効を中断できます。

不貞相手が既婚者であることを知らなかった場合、過失がなければ慰謝料請求は認められません。夫婦関係が既に破綻していた場合も慰謝料は発生しません。

慰謝料請求の要件と相場

貞操義務違反による慰謝料請求は、配偶者の不貞行為によって精神的苦痛を受けたあなたが損害賠償を求める法的手段です。請求の成否は証拠の有無と違反の程度により大きく左右されます。

請求できる場合の条件

配偶者が第三者と性的関係を持った証拠があれば、あなたは慰謝料を請求できます。ラブホテルの領収書や探偵事務所の調査報告書があれば、裁判所は不貞行為を認定します。配偶者だけでなく浮気相手にも請求でき、両方に請求することも片方だけに請求することも可能です。

LINEでの性的なメッセージのやり取りや、二人きりでの宿泊を示す写真も有力な証拠となります。妊娠や性病感染の診断書があれば、不貞行為の決定的な証拠として扱われます。風俗店の利用についても、頻繁な通いや特定の従業員との継続的な関係があれば請求対象となります。

慰謝料請求権は不貞の事実を知った日から3年間行使できます。別居や離婚に至らなくても請求は可能で、婚姻関係を継続しながら精神的苦痛に対する賠償を求められます。

請求できないケース

異性と食事やカラオケに行っただけでは、あなたは慰謝料を請求できません。キスやハグといった行為があっても、性交渉の証拠がなければ裁判所は不貞行為と認定しません。単なるデートや親密なメッセージ交換だけでは、法的に保護される利益の侵害とは判断されないのです。

別居開始から5年以上経過している場合、配偶者が新たなパートナーと関係を持っても不貞行為とは認められません。夫婦関係が完全に破綻していると裁判所が判断すれば、貞操義務違反は成立しないからです。

一度きりの過ちについても、婚姻生活への影響が軽微であれば慰謝料は認められない傾向があります。酔った勢いでの一夜限りの関係や、相手が既婚者であることを知らなかった場合など、悪質性が低いケースでは請求が棄却される可能性が高まります。

慰謝料の相場金額

婚姻を継続する場合、慰謝料は50万円から100万円が相場です。別居に至った場合は100万円から200万円に増額され、離婚する場合は150万円から300万円まで上昇します。婚姻期間が10年以上の長期にわたる場合や、子どもがいる家庭では金額が上積みされる傾向があります。

不貞行為の期間や回数も金額に影響します。1年以上継続した関係や、週に複数回会っていた証拠があれば、慰謝料は高額になります。相手が妊娠した場合や、不貞関係を理由に家を出た場合は、最高額に近い判決が下されます。

配偶者の年収も考慮されます。年収1000万円を超える高所得者の場合、慰謝料が300万円を超えることもあります。逆に無職や低所得の場合は、支払い能力を考慮して減額される可能性があります。

慰謝料請求の手続きと注意点

貞操義務違反による慰謝料請求は、適切な証拠収集と正確な手続きを踏むことで成功率が高まります。配偶者の不貞行為を発見したあなたが取るべき具体的なステップを解説します。

必要な証拠の収集

あなたが配偶者の不貞行為を立証するには、肉体関係を証明する客観的証拠が必要です。LINEやメールで「昨夜は楽しかった」といった曖昧なメッセージだけでは不十分です。ラブホテルに2人で入る写真、ホテルの領収書、性的関係を示す明確なやり取りが証拠として認められます。

探偵事務所への依頼費用は30万円から100万円程度かかりますが、自力での尾行は違法行為になるリスクがあります。GPS機器を無断で取り付けた場合、ストーカー規制法違反で逮捕される可能性があります。探偵は合法的な調査方法で、裁判で使える報告書を作成します。

相手の身元特定も重要です。名前と住所が分からなければ内容証明郵便を送れません。SNSのプロフィールや車のナンバープレートから特定する方法もありますが、個人情報保護法に抵触しないよう注意が必要です。証拠収集を始める前に、弁護士に相談することで適切な方法を選択できます。

請求手順と時効

慰謝料請求の第一歩は内容証明郵便の送付です。あなたが作成する書面には、不貞行為の事実、請求金額、支払期限を明記します。相手が応じない場合は、民事調停を申し立てます。調停費用は1,200円で、話し合いによる解決を図れます。

調停が不調に終われば、訴訟を提起します。訴訟費用は請求額により変動し、300万円請求なら2万円の印紙代がかかります。判決までの期間は6ヶ月から1年程度です。勝訴すれば強制執行により相手の給与や預金を差し押さえられます。

時効は不貞行為を知った日から3年です。2024年1月15日に発覚した場合、2027年1月14日までに請求する必要があります。不貞行為から20年経過すると、あなたが知らなくても請求権は消滅します。別居中の不貞でも時効は進行するため、早期の対応が重要です。

事実婚における貞操義務

事実婚のパートナーとの間で貞操義務が発生するかどうか、あなたは疑問に思っているかもしれません。婚姻届を提出していない事実婚では、法律上の明確な貞操義務は存在しません。民法770条1項1号の規定は法律婚のみに適用され、事実婚カップルには直接適用されないのです。

事実婚カップルの貞操義務の実態

あなたが事実婚を選択した場合でも、パートナーとの間に貞操義務に相当する責任が生じることがあります。裁判所は事実婚を「婚姻に準ずる関係」として認め、一定の法的保護を与えています。東京地裁平成28年3月29日判決では、事実婚のパートナーの不貞行為に対して慰謝料150万円の支払いを命じました。

事実婚における貞操義務違反の慰謝料相場:

  • 関係継続の場合:30-80万円
  • 関係解消の場合:100-200万円

公正証書による貞操義務の明文化

あなたとパートナーが事実婚を選ぶ際、公正証書で貞操義務を明記することができます。公正証書作成費用は約2-5万円で、以下の内容を含めることが可能です:

  • 第三者との性的関係の禁止条項
  • 違反時の慰謝料額(100-300万円)
  • 関係解消時の財産分与規定

公証役場での手続きには、両者の印鑑証明書と身分証明書が必要です。作成した公正証書は法的拘束力を持ち、違反時には強制執行の根拠となります。

事実婚の貞操義務違反で認められるケース

あなたのパートナーが他の異性と親密な関係を持った場合、以下の証拠があれば慰謝料請求が認められる可能性があります:

  • ラブホテルの利用を示す写真や領収書
  • 継続的な宿泊の事実(週3回以上、3ヶ月以上)
  • SNSでの親密なやり取り(「愛してる」などの文言)
  • 妊娠や性病感染の医療記録

まとめ

貞操義務は単なる道徳的な約束ではなく、法的拘束力を持つ重要な責任です。あなたが配偶者との信頼関係を築き、健全な結婚生活を維持するためには、この義務への正しい理解が不可欠となります。

万が一、あなたがパートナーの不貞行為に直面した場合、感情的になる前に冷静な対応を心がけることが大切です。証拠の確保から法的手続きまで、専門家のサポートを受けながら進めることで、あなたの権利を守ることができるでしょう。

貞操義務は夫婦関係の根幹をなすものです。お互いを尊重し、誠実な関係を築くことが、幸せな結婚生活への第一歩となります。法的な側面を理解しつつも、何よりパートナーとの対話と信頼を大切にすることが、真の意味での夫婦の絆を深めることにつながるでしょう。

藤上 礼子のイメージ
ブログ編集者
藤上 礼子
藤上礼子弁護士は、2016年より当事務所で離婚問題に特化した法律サービスを提供しています。約9年にわたる豊富な経験を活かし、依頼者一人ひとりの状況に真摯に向き合い、最適な解決策を導き出すことを信条としています。ブログ編集者としても、法律知識をわかりやすくお伝えし、離婚に悩む方々の不安を少しでも和らげたいと活動中です。
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