養育費の新算定表が高すぎると思った時の対処法と見直しのポイント
離婚や別居時に決定される養育費。2019年に改定された新算定表を見て、「こんなに高いの?」と驚いた方も多いのではないでしょうか。確かに旧算定表と比較すると、月額1~2万円程度増額されるケースが目立ちます。
しかし、養育費は子どもの健全な成長のために必要不可欠な費用です。一方で、支払う側の生活も守られなければなりません。この記事では、新算定表の仕組みを理解した上で、負担が重すぎると感じた時にどう対処すべきか、具体的な方法と注意点を解説します。
目次
養育費の新算定表とは?
養育費の新算定表は、家庭裁判所が養育費の金額を決める際に使用する標準的な基準表です。支払う側(義務者)と受け取る側(権利者)の年収、子どもの人数と年齢によって、適正な養育費の目安が一目で分かるようになっています。
この算定表は2019年12月に大幅改定されました。それまで使われていた旧算定表は2003年に作成されたもので、16年間も同じ基準が使われ続けていたんです。その間に物価は上昇し、教育費は高騰し、家庭の支出構造も大きく変化しました。
新算定表では、こうした社会情勢の変化を反映させるため、最新の統計データを基に全面的に見直されています。具体的には、家計調査年報や賃金構造基本統計調査など、政府が発表する最新のデータを活用して作成されました。
あなたが養育費について話し合う際、この算定表は「スタート地点」となります。裁判所も基本的にはこの表を参考にしますが、あくまで標準的なケースを想定したものです。個別の事情によっては、この金額から増減することもあります。
養育費の新算定表で金額が増加した理由
新算定表を見て「高すぎる」と感じるのは、あなただけではありません。実際、多くのケースで旧算定表より月額1~2万円、子どもが複数いる場合はさらに増額されています。では、なぜこれほど金額が上がったのでしょうか。
最大の理由は、子育てにかかる実際の費用が反映されたことです。旧算定表が作られた2003年と比べて、教育費は約1.5倍に上昇しています。塾代、習い事、スマートフォン代など、現代の子育てに必要な支出項目も増えました。
旧算定表から変更された主なポイント
旧算定表からの変更点で最も影響が大きいのは、基礎収入の算定方法です。基礎収入とは、総収入から税金や社会保険料、職業費などを差し引いた「実際に使える収入」のことを指します。
新算定表では、この基礎収入の割合が見直されました。例えば、給与収入500万円の場合、旧算定表では基礎収入を42%として計算していましたが、新算定表では43%に引き上げられています。わずか1%の違いに見えますが、これが積み重なると大きな差になります。
さらに、子どもの年齢区分も変更されました。旧算定表では「0~14歳」と「15~19歳」の2区分でしたが、新算定表では「0~14歳」と「15歳以上」に変更。高校卒業後も大学進学が一般的になった現代の実情を反映しています。
基礎収入と生活費指数の見直し
生活費指数についても大幅な見直しが行われました。生活費指数とは、親を100とした時の子どもの生活費の割合を示す数値です。
旧算定表では、0~14歳の子どもの生活費指数を55、15~19歳を90としていました。しかし新算定表では、0~14歳を62、15歳以上を85に変更。特に幼い子どもの生活費指数が大幅に引き上げられたことで、養育費の増額につながっています。
この変更の背景には、現代の子育て実態があります。保育料、医療費、被服費、食費など、実際にかかっている費用を詳細に分析した結果、従来の指数では実態を反映できていないことが判明したのです。
養育費が高すぎると感じた時の確認事項
新算定表の金額を見て「支払いが厳しい」と感じたら、まず冷静に状況を整理することが大切です。感情的になって話し合いを進めても、良い結果は得られません。ここでは、確認すべき重要なポイントを順番に見ていきましょう。
算定表の見方と計算方法の再確認
まず確認したいのは、算定表を正しく読めているかどうかです。よくある間違いは、年収の捉え方です。算定表で使う年収は「額面年収」、つまり税金や社会保険料を引く前の総収入額です。手取り収入ではありません。
源泉徴収票でいえば「支払金額」の欄、確定申告書なら「収入金額」の欄の数字を使います。ボーナスも含めた年間の総額です。残業代や各種手当も含まれます。
そして、算定表は縦軸が義務者(支払う側)の年収、横軸が権利者(受け取る側)の年収になっています。両者の年収が交わる点が、標準的な養育費の月額です。
最近では、裁判所のウェブサイトで自動計算ツールも提供されています。年収と子どもの人数・年齢を入力するだけで、適正額が算出されるので活用してみてください。手計算で間違えるリスクも減らせます。
相手方の収入状況の正確な把握
養育費の金額は、双方の収入バランスで決まります。だからこそ、相手方の収入を正確に把握することが重要です。
離婚協議の段階では、お互いに源泉徴収票や確定申告書を開示し合うのが基本です。「プライバシーだから」と拒否される場合もありますが、養育費を適正に決めるためには必要不可欠な情報です。
特に注意したいのは、相手方が自営業やフリーランスの場合です。確定申告書の所得金額だけでなく、経費の内容も確認が必要です。なぜなら、生活費と事業経費の線引きが曖昧なケースがあるからです。
相手方が会社員でも、副業収入がないか確認しましょう。最近は副業を認める企業も増えており、給与以外の収入がある可能性があります。
特別な事情の有無の検討
算定表はあくまで標準的なケースを想定したものです。あなたの家庭に特別な事情があれば、それを考慮して金額を調整できる可能性があります。
例えば、子どもに重度の障害や慢性的な病気がある場合です。医療費や療育費が通常より多くかかるため、算定表の金額では不足することがあります。逆に、支払う側に持病があって医療費負担が大きい場合は、減額が認められることもあります。
面会交流に関する費用も考慮される場合があります。遠方に住んでいて、面会のたびに新幹線や飛行機を使う必要がある。そんな場合は、交通費負担を理由に養育費の調整が認められることがあります。
住宅ローンの扱いも重要です。離婚後も元配偶者と子どもが住み続ける家のローンを支払い続ける場合、その分を養育費から差し引くという考え方もあります。
養育費を減額できる具体的なケース
養育費は一度決めたら変更できないと思っていませんか?実は、事情が大きく変わった場合には、減額が認められることがあります。ただし、どんな理由でも認められるわけではありません。裁判所が「やむを得ない事情の変更」と判断するケースを具体的に見ていきましょう。
支払い側の収入が減少した場合
最も多い減額理由は、支払い側の収入減少です。でも、単に「給料が下がった」というだけでは認められません。
リストラや会社の倒産による失業は、典型的な減額理由です。ただし、自己都合退職の場合は要注意。「養育費を払いたくないから仕事を辞めた」と見なされると、減額は認められません。
病気やケガで働けなくなった場合も、減額理由になります。医師の診断書など、客観的な証拠が必要です。うつ病などの精神疾患も、適切な治療を受けていることが前提となります。
定年退職による収入減も考慮されます。60歳や65歳で定年を迎え、再雇用で給与が大幅に下がった。そんな場合は、新しい収入に基づいて養育費を再計算できます。
ただし、収入が減ったからといって、勝手に養育費を減らしてはいけません。必ず相手方と協議するか、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。
受け取り側の収入が増加した場合
意外と見落としがちなのが、受け取る側の収入増加です。養育費を決めた当時は専業主婦だったけれど、その後就職して安定収入を得るようになった。こんなケースでは、養育費の減額が認められる可能性があります。
昇進や転職で年収が大幅にアップした場合も同様です。例えば、パートから正社員になって年収が200万円から400万円に増えた。このような大きな変化があれば、養育費の見直しは合理的といえるでしょう。
相手方が再婚した場合も要チェックです。再婚相手に十分な収入があり、生活が安定した場合は、養育費減額の理由になり得ます。ただし、再婚しただけで自動的に養育費がゼロになるわけではありません。子どもとの親子関係は変わらないからです。
再婚や扶養家族の変化がある場合
あなた自身が再婚して、新しい家族を扶養することになった場合はどうでしょうか。
再婚相手に連れ子がいて、その子を養子縁組した場合、新たな扶養義務が発生します。また、再婚相手との間に子どもが生まれた場合も同様です。扶養すべき子どもが増えれば、一人当たりに使える金額は当然減ります。
再婚相手が専業主婦(主夫)で収入がない場合も、扶養家族が増えたことになります。ただし、再婚相手に働く能力があるのに働いていない場合は、減額理由として認められにくいでしょう。
親の介護が必要になった場合も、状況によっては考慮されます。介護施設の費用や在宅介護のための支出が家計を圧迫している場合、養育費の減額理由になることがあります。
養育費減額の具体的な手続き方法
養育費を減額したい理由が明確になったら、次は具体的な手続きに入ります。感情的にならず、冷静に、そして誠実に進めることが成功のカギです。
まずは当事者間での話し合い
最初のステップは、元配偶者との直接交渉です。「裁判所に行く前に話し合いなんて無理」と思うかもしれません。でも、お互いに歩み寄れれば、時間もお金も節約できます。
話し合いを始める前に、準備を整えましょう。収入が減った証明書類、家計簿、新しい養育費の提案額とその根拠。これらを整理して、相手に理解してもらえるよう準備します。
連絡方法も大切です。いきなり電話するより、まずはメールやLINEで「養育費について相談したいことがある」と伝える。相手の都合を聞いて、落ち着いて話せる日時と場所を決めます。
話し合いの際は、子どものことを第一に考える姿勢を示しましょう。「払いたくない」ではなく「払い続けたいけれど、現状では厳しい」という立場で臨みます。具体的な数字を示しながら、現実的な落としどころを探ります。
合意できたら、必ず書面に残します。公正証書にするのがベストですが、最低でも合意書を作成し、双方が署名・押印します。口約束だけでは、後でトラブルになる可能性があります。
家庭裁判所への減額調停申立て
話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に養育費減額調停を申し立てます。調停は裁判とは違い、調停委員が間に入って話し合いを進める手続きです。
申立てに必要な書類は、申立書、事情説明書、子どもの戸籍謄本、収入を証明する書類などです。申立書の書き方が分からない場合は、家庭裁判所の受付で教えてもらえます。
費用は、収入印紙1,200円と郵便切手(裁判所により異なるが数百円程度)です。弁護士に依頼することもできますが、必須ではありません。自分で申し立てる人も多くいます。
調停では、調停委員が双方の言い分を聞き、妥協点を探ります。新算定表を基準にしつつ、個別の事情も考慮してくれます。平均して3~4回の調停期日で結論が出ることが多いです。
調停でも合意できない場合は、審判に移行します。審判では、裁判官が双方の主張と証拠を検討し、養育費の額を決定します。この決定には強制力があるので、従わなければなりません。
養育費支払いに関する重要な注意点
養育費の支払いが苦しくなった時、つい「少しくらい遅れても」「勝手に減額しても」と考えてしまうかもしれません。しかし、それは大きなリスクを伴います。ここでは、絶対に知っておくべき注意点を説明します。
支払い義務は勝手に消滅しない
養育費の支払い義務は、あなたが「もう払えない」と思っただけでは消えません。たとえ失業しても、病気になっても、再婚しても、支払い義務は継続します。
正式な手続きを経て減額や免除が認められるまでは、決められた金額を払い続ける義務があります。「相手も分かってくれるだろう」という甘い期待は禁物です。
特に注意したいのは、公正証書や調停調書で養育費が決まっている場合です。これらには「債務名義」としての効力があり、不払いがあれば即座に強制執行される可能性があります。
養育費の時効は5年です。つまり、5年間請求されなければ時効で消滅する…と思うかもしれませんが、実際はそう簡単ではありません。相手が定期的に請求していれば時効は中断しますし、調停調書があれば時効期間は10年になります。
一方的な不払いによるリスク
勝手に養育費の支払いを止めると、どんなリスクがあるのでしょうか。
まず、遅延損害金が発生します。法定利率(現在は年3%)で計算され、元金に上乗せされます。例えば、月5万円の養育費を1年間滞納すると、60万円の元金に加えて約1万8千円の遅延損害金が発生します。
次に、給与や預金の差押えリスクです。公正証書や調停調書がある場合、相手は裁判を起こさなくても、直接あなたの財産を差し押さえることができます。給与の場合、手取り額の2分の1まで差し押さえ可能です。
職場に差押え通知が届けば、社会的信用にも影響します。「養育費を払わない人」というレッテルを貼られ、昇進や転職に影響する可能性もあります。
さらに深刻なのは、子どもとの関係への影響です。養育費の不払いを理由に、面会交流を拒否される可能性があります。法的には養育費と面会交流は別問題ですが、実際には関連付けられることが多いのが現実です。
最悪の場合、財産開示手続きや第三者からの情報取得手続きにより、あなたの全財産が調査される可能性もあります。2020年の民事執行法改正により、これらの手続きがより使いやすくなりました。
専門家への相談を検討すべきタイミング
養育費の問題は、一人で抱え込まないことが大切です。でも、いつ専門家に相談すべきか迷いますよね。ここでは、専門家の力を借りるべきタイミングと、相談先の選び方を解説します。
相手方との話し合いが平行線をたどっている時は、第三者の介入が必要なサインです。感情的な対立が続くと、子どものためにならない結果になりかねません。
収入が大幅に減少し、現在の養育費では生活が成り立たなくなった時も、早めの相談が必要です。支払いが滞る前に手を打つことで、信頼関係を保ちながら解決できる可能性が高まります。
公正証書や調停調書の内容を変更したい場合は、必ず専門家のアドバイスを受けましょう。これらの文書には法的効力があるため、適切な手続きを踏まないと、思わぬトラブルに発展する恐れがあります。
相談先として最も身近なのは、市区町村の無料法律相談です。月に数回、弁護士による相談会が開催されています。30分程度と時間は限られますが、方向性を確認するには十分です。
法テラス(日本司法支援センター)も有力な選択肢です。収入が一定以下であれば、無料で法律相談を受けられ、弁護士費用の立替え制度も利用できます。
養育費相談支援センターは、養育費に特化した相談機関です。電話やメールで無料相談でき、具体的なアドバイスがもらえます。匿名での相談も可能なので、まずはここから始めるのも良いでしょう。
弁護士に依頼する場合、費用は気になるところです。相談料は30分5,000円程度が相場ですが、初回無料の事務所も増えています。調停の代理人を依頼すると20~30万円程度かかりますが、分割払いに応じてくれる事務所もあります。
司法書士も選択肢の一つです。書類作成のサポートは得意分野で、費用も弁護士より安い傾向があります。ただし、調停の代理人にはなれないので、自分で裁判所に行く必要があります。
まとめ
養育費の新算定表を見て「高すぎる」と感じるのは、決して珍しいことではありません。2019年の改定で多くのケースで増額となり、支払う側の負担は確実に重くなりました。
しかし、だからといって諦める必要はありません。算定表はあくまで目安であり、個別の事情によって調整は可能です。重要なのは、正しい知識を持ち、適切な手続きを踏むことです。
まずは冷静に現状を分析しましょう。算定表の見方は正しいか、相手の収入は正確に把握できているか、特別な事情はないか。これらを一つずつ確認することから始めます。
減額が必要な場合は、まず相手方と誠実に話し合います。それでも解決しない場合は、家庭裁判所の調停を利用します。決して一方的に支払いを止めたり、減額したりしてはいけません。
養育費は子どもの権利です。あなたがどんなに苦しくても、子どもの生活と成長を支える責任は変わりません。だからこそ、持続可能な金額で合意することが大切なのです。
一人で悩まず、必要に応じて専門家の力を借りましょう。市区町村の無料相談、法テラス、養育費相談支援センターなど、様々な支援制度があります。
最後に覚えておいてほしいのは、養育費の問題に「完璧な正解」はないということです。それぞれの家庭に、それぞれの事情があります。大切なのは、子どもの最善の利益を考えながら、現実的で持続可能な解決策を見つけることです。
あなたと元配偶者、そして何より子どもにとって、より良い未来が築けることを願っています。
