DVを受けた女性の特徴:心理・行動・環境から見る被害者の実態

あなたの身近にいる女性が、最近様子がおかしいと感じたことはありませんか。頻繁に「ごめんなさい」と謝り、楽しそうだった趣味の話をしなくなり、友人との連絡も途絶えがち。実はこれらの変化は、DV(ドメスティック・バイオレンス)被害のサインかもしれません。

内閣府の調査によると、配偶者からの暴力相談件数は年間12万件を超え、その約9割が女性からの相談です。DVは単なる夫婦喧嘩ではなく、身体的・精神的・経済的な暴力を含む深刻な人権侵害です。

被害者の多くは「自分が悪いから」と思い込み、助けを求められずにいます。本記事では、DVを受けやすい女性の特徴を心理面・行動面・環境面から詳しく解説し、被害から抜け出すための道筋を示します。

DVとその現状を理解する

DVという言葉を聞いて、あなたはどんなイメージを持ちますか。殴る蹴るといった暴力だけがDVだと思っていませんか。実際のDVは、もっと複雑で見えにくい形で私たちの生活に潜んでいます。

DVの定義と種類

DVは配偶者や恋人など親密な関係にある相手から受ける暴力行為の総称です。身体的暴力(殴る・蹴る・物を投げつける)だけでなく、精神的暴力(罵倒・脅迫・無視・人格否定)も含まれます。性的暴力として性行為の強要や避妊の拒否、経済的暴力として生活費を渡さない・借金を強要する、社会的暴力として交友関係の制限や携帯電話のチェックなども該当します。

これらの暴力は単独ではなく、複合的に行われることが多いのが特徴。例えば、「お前なんか誰も相手にしない」と罵倒した後に暴力を振るい、その後「俺がいないとお前は生きていけない」と経済的に支配する。こうした巧妙な手口で、被害者は徐々に追い詰められていきます。

日本における女性のDV被害の実態

警察庁の統計では、2023年のDV事案の認知件数は約8万8千件。配偶者暴力相談支援センターへの相談件数は12万件を超え、その89.1%が女性からの相談です。しかし、これは氷山の一角に過ぎません。内閣府の調査では、配偶者から暴力を受けた女性の約4割が「どこにも相談しなかった」と回答しています。

相談しない理由として最も多いのが「相談するほどのことではないと思った」(38.9%)、次いで「自分にも悪いところがあると思った」(22.5%)。被害者の多くは、暴力を受けながらも「私が我慢すれば」「子どものために」と耐え続けています。特に日本では「家庭内のことは外に出さない」という文化的背景も、被害の潜在化に拍車をかけているのです。

DVを受けやすい女性の心理的特徴

「なぜ逃げないの?」DV被害者に対して、周囲の人はこう疑問を持つかもしれません。しかし、DVを受けやすい女性には共通する心理的特徴があり、それが逃げることを困難にしているのです。

自己肯定感の低さと自己犠牲的な思考

DV被害者の多くは、自己肯定感が著しく低い傾向にあります。「私なんか価値がない」「こんな私を愛してくれるのは彼だけ」という思い込みが、暴力を受け入れる土壌となっています。幼少期に親から否定的な言葉を浴びせられたり、過保護や過干渉で自己決定の機会を奪われた経験があると、大人になっても自分の価値を認められません。

自己犠牲的な思考パターンも特徴的です。「相手が怒るのは私が至らないから」「私さえ我慢すれば家庭は円満」と、常に自分を責めます。相手の機嫌を損ねないよう、自分の意見や感情を押し殺し、相手の期待に応えることが愛情だと錯覚。この思考は、暴力を正当化する加害者の言い分を受け入れやすくさせ、被害を長期化させる要因となります。

相手への過度な依存と共依存関係

経済的・精神的に相手に依存している女性は、DVのターゲットになりやすい傾向があります。専業主婦で収入がない、実家との関係が希薄、友人が少ないなど、相手以外に頼る存在がいない状況では「この人がいなければ生きていけない」という恐怖が生まれます。

共依存関係に陥ると、さらに深刻です。相手の世話を焼くことで自分の存在価値を見出し、相手の問題行動を自分が支えることで優越感を得る。「私がいないとダメな人」という認識が、暴力を受けても離れられない理由になります。加害者も被害者の依存心を巧みに利用し、「お前がいないと俺はダメになる」と脅すことで、罪悪感を植え付けます。

感情の不安定さと境界線の曖昧さ

DV被害者は、自分と他者の感情の境界線が曖昧になりがちです。相手の機嫌が悪いと自分も不安になり、相手が怒ると自分が悪いと感じる。相手の感情に過度に反応し、常に相手の顔色をうかがう生活が当たり前になります。

この境界線の曖昧さは、幼少期の家庭環境が影響していることが多いです。親の感情に振り回された、親の期待に応えることが愛情を得る唯一の方法だったなど、健全な境界線を学ぶ機会がなかった人は、大人になっても相手の感情に巻き込まれやすいです。結果として、相手の暴力的な感情も「私が引き起こした」と内面化してしまうのです。

DVを受けやすい女性の行動パターン

DVを受けている女性の行動には、特徴的なパターンが見られます。これらの行動は、本人も無意識のうちに身につけてしまった「生存戦略」であることが多いのです。

過度に謝罪する習慣と責任の引き受け

「ごめんなさい」が口癖になっていませんか。DV被害者は、理不尽な状況でも反射的に謝罪します。相手がイライラしている→私が何かしたに違いない→とりあえず謝っておこう、という思考回路が出来上がっています。

例えば、夫が仕事でミスをして帰宅します。八つ当たりで怒鳴られても「私の夕飯の準備が遅かったから、あなたの気分を害してしまった」と自分に責任を転嫁しようとします。

第三者から見れば明らかに理不尽でも、本人は「私が気を利かせていれば防げた」と本気で信じています。この過度な責任感は、加害者にとって都合の良い標的となり、「お前のせいで俺はこうなった」という責任転嫁を受け入れやすくさせます。

自己主張の抑制と我慢の常態化

あなたは最後に自分の意見をはっきり言ったのはいつですか。DV環境下では、自己主張は危険を招く行為。「それは違うと思う」と言えば暴力、「これが食べたい」と言えば罵倒。次第に自分の意見を持つこと自体を諦めてしまいます。

我慢が日常化すると、身体にも影響が現れます。頭痛、胃痛、不眠、過呼吸などの症状が出ても「大したことない」と無視。病院に行くことすら「迷惑をかける」と躊躇します。友人との約束をドタキャンすることが増え、「夫が機嫌悪いから」という本当の理由は言えず、嘘の言い訳を重ねる。こうして社会との接点が減り、孤立が深まっていくのです。

他者優先の傾向と尽くしすぎる姿勢

相手の好みに合わせて髪型を変え、相手の趣味に付き合い、相手の友人を優先する。自分の時間や興味は後回し。これがDV被害者によく見られる行動パターンです。「彼が喜ぶなら」が判断基準となり、自分が何をしたいのか分からなくなっています。

尽くしすぎる姿勢は、一見すると愛情深い行動に見えます。しかし、その根底にあるのは「これだけ尽くせば暴力は止まるはず」「完璧な妻になれば愛してもらえる」という切実な願い。朝5時に起きて弁当を作り、家事を完璧にこなし、夫の機嫌を損ねないよう気を配る。それでも暴力は止まらず、「まだ努力が足りない」とさらに自分を追い詰めていくのです。

DV被害者の社会的・環境的要因

DVは個人の問題だけでなく、社会的・環境的な要因も大きく影響しています。被害者を取り巻く環境が、DVを受けやすい状況を作り出していることも少なくありません。

孤立しやすい人間関係の特徴

DV被害者の多くは、気づけば友人との連絡が途絶え、実家との関係も疎遠になっています。これは偶然ではなく、加害者による計画的な「孤立化戦略」の結果です。「あの友達は君のことを悪く言っていた」「実家の親は俺たちの幸せを邪魔している」といった嘘や誇張で、徐々に人間関係を断ち切らせます。

被害者自身も、暴力を受けていることを恥と感じ、自ら孤立を選ぶことがあります。「幸せそうに見えていた私がDVを受けているなんて知られたくない」「心配をかけたくない」という思いから、助けを求められません。

SNSでは幸せな家族写真を投稿し、現実との乖離に苦しみながらも、誰にも本音を言えない。職場でも「家庭の事情で」と曖昧な理由で欠勤や早退を繰り返し、同僚との距離も開いていきます。

過去のトラウマと世代間連鎖

幼少期に暴力を目撃したり、自身が虐待を受けた経験がある女性は、DVの被害者になるリスクが高いという研究結果があります。暴力が日常的な環境で育つと、「愛情表現には暴力も含まれる」という歪んだ認識が形成されます。

母親がDVを受けている姿を見て育った女性は、「女性は我慢するもの」「結婚とはこういうもの」という誤った学習をしています。父親から「お前は何もできない」と言われ続けた女性は、パートナーから同じ言葉を浴びせられても「やっぱり私はダメな人間だ」と受け入れてしまう。

この世代間連鎖を断ち切るのは容易ではありません。「私の母も耐えたのだから」という思いが、暴力からの脱出を妨げます。さらに、自分の子どもにも同じ連鎖が起きることを恐れながらも、どう断ち切ればいいか分からず苦しんでいるのです。

DV被害から抜け出せない心理メカニズム

「なぜ別れないの?」この質問に、DV被害者は答えられません。それは意志が弱いからではなく、複雑な心理メカニズムに囚われているからです。

暴力のサイクルと学習性無力感

DVには特有の「暴力のサイクル」があります。緊張期(イライラが募る)→爆発期(暴力が起きる)→ハネムーン期(優しくなる)の繰り返し。ハネムーン期には「もう二度としない」「お前を愛している」と涙ながらに謝罪し、プレゼントを贈ったり、優しい言葉をかけます。

このサイクルに巻き込まれると、被害者は「今度こそ変わってくれる」と期待します。しかし、その期待は必ず裏切られ、再び暴力が始まる。これを繰り返すうちに「学習性無力感」に陥ります。何をしても状況は変わらない、逃げても連れ戻される、助けを求めても信じてもらえない。

こうした経験の積み重ねが、「もう何をしても無駄」という諦めの境地に導きます。実際、シェルターに逃げても連れ戻された、警察に相談しても「夫婦の問題」と取り合ってもらえなかった、という経験を持つ被害者は少なくありません。

愛情と支配の混同による認知の歪み

「彼は私を愛しているから束縛する」「嫉妬するのは愛情の証」こうした認知の歪みが、DVを正当化させます。加害者も巧妙に愛情を演出します。「お前のことが好きすぎて、つい手が出てしまう」「他の男と話すお前を見ると、失いたくなくて頭がおかしくなる」といった言葉で、暴力を愛情にすり替えます。

被害者は次第に、監視や束縛を「私のことを大切に思ってくれている」と解釈するようになります。友人と会うことを禁じられても「心配してくれている」、給料を管理されても「家計を任せてくれている」と前向きに捉えようとします。

この認知の歪みは、周囲が「それはDVだ」と指摘しても、簡単には修正できません。むしろ「みんなは私たちの愛情を理解していない」と、さらに孤立を深めることもあるのです。

DV被害者への支援と回復への道筋

DVから抜け出すことは、決して不可能ではありません。適切な支援を受け、安全な環境で回復への一歩を踏み出すことができます。

専門機関への相談の重要性

まず知ってほしいのは、あなたは一人ではないということ。全国の配偶者暴力相談支援センターでは、専門の相談員が24時間体制で相談を受け付けています(DV相談プラス:0120-279-889)。警察の生活安全課、市区町村の女性相談窓口、民間のDV被害者支援団体など、様々な相談先があります。

相談する際は、暴力の証拠(写真、診断書、日記など)があれば持参しましょう。ただし、暴力の証拠がなくても相談は可能です。「大したことないかも」と躊躇せず、まずは話を聞いてもらうことから始めてください。

相談員は守秘義務があり、あなたの同意なく加害者に連絡することはありません。緊急の場合は、一時保護施設(シェルター)の利用も可能です。場所は安全のため非公開で、加害者から身を隠しながら、今後の生活を考える時間を確保できます。

安全な環境作りと心理的回復のプロセス

物理的な安全が確保できたら、心理的な回復のプロセスが始まります。長期間DVを受けていると、自尊心が著しく低下し、正常な判断力も失われています。カウンセリングや自助グループへの参加を通じて、少しずつ自分を取り戻していきます。

回復には時間がかかります。「また同じような相手を選んでしまうのでは」という不安、「子どもに申し訳ない」という罪悪感、「経済的にやっていけるか」という現実的な問題。これらと向き合いながら、一歩ずつ前に進んでいきます。

就労支援、住宅支援、法的支援など、様々なサポート制度があることも知ってください。離婚調停や保護命令の申立てなど、法的手続きについても、専門家がサポートしてくれます。大切なのは、焦らないこと。あなたのペースで、あなたらしい人生を取り戻していけばいいのです。

まとめ

DVを受けやすい女性には、自己肯定感の低さ、過度な依存、感情の境界線の曖昧さといった心理的特徴があります。行動面では過度な謝罪、自己主張の抑制、他者優先の姿勢が見られ、社会的には孤立しやすく、過去のトラウマや世代間連鎖の影響を受けていることが多いです。

これらの特徴は、決してその人の「弱さ」ではありません。様々な要因が複雑に絡み合った結果であり、誰にでも起こりうることです。暴力のサイクルや学習性無力感、認知の歪みといった心理メカニズムが、被害からの脱出を困難にしています。

しかし、希望はあります。専門機関への相談、安全な環境の確保、心理的回復のサポートを受けることで、DVから抜け出し、新しい人生を始めることは可能です。もしあなたが今、DVに苦しんでいるなら、勇気を出して助けを求めてください。

あなたには暴力を受けない権利があり、幸せになる資格があります。周囲の方も、DVのサインに気づいたら、批判せず寄り添い、適切な支援につなげてください。一人でも多くの女性が、暴力から解放され、自分らしく生きられる社会を、共に作っていきましょう。

藤上 礼子のイメージ
ブログ編集者
藤上 礼子
藤上礼子弁護士は、2016年より当事務所で離婚問題に特化した法律サービスを提供しています。約9年にわたる豊富な経験を活かし、依頼者一人ひとりの状況に真摯に向き合い、最適な解決策を導き出すことを信条としています。ブログ編集者としても、法律知識をわかりやすくお伝えし、離婚に悩む方々の不安を少しでも和らげたいと活動中です。
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