不倫相手に慰謝料の支払い能力がないと泣き寝入りされた場合

不倫の慰謝料を請求したら「お金がないから払えません」と開き直られた。そんな理不尽な状況に直面したあなたは、怒りと絶望で途方に暮れているかもしれません。

確かに、相手に本当に支払い能力がなければ慰謝料の回収は困難です。しかし、だからといってすぐに諦める必要はありません。実は「お金がない」という主張の多くは、支払いを逃れるための言い訳に過ぎないケースが少なくないのです。

本記事では、不倫相手から「支払い能力がない」と主張された場合の具体的な対処法について、法律の専門家の視点から詳しく解説します。相手の本当の経済状況を調査する方法から、現実的な回収方法、さらには金銭以外の解決策まで、あなたが取れる選択肢を幅広くご紹介していきます。

支払い能力がないと主張された場合でも泣き寝入りする必要はない

「お金がないので慰謝料は払えません」不倫相手からこう言われたとき、多くの被害者は諦めてしまいがちです。しかし、この主張を額面通りに受け取る必要はありません。

実際のところ、慰謝料請求を受けた加害者の多くは、支払いを免れようと「お金がない」と主張します。でも本当に一文無しという人は稀で、多くの場合は何らかの収入源や資産を持っているものです。正社員として働いているなら毎月の給与があるはずですし、車や不動産、貯金など、何らかの財産を保有している可能性は十分にあります。

また、仮に現時点で支払い能力が限定的だったとしても、分割払いや減額交渉、親族からの援助など、様々な解決策が存在します。慰謝料は被害者の正当な権利です。相手の一方的な主張で簡単に諦めてしまっては、不倫という不法行為を許すことになってしまいます。

大切なのは、相手の主張を鵜呑みにせず、冷静に状況を分析し、適切な対応を取ることです。次章から、具体的な調査方法と対処法について詳しく見ていきましょう。

不倫相手が本当に支払い能力がないのか確認する方法

相手が「お金がない」と主張しても、それが事実かどうかは徹底的に調査する必要があります。ここでは、相手の経済状況を把握するための具体的な方法を解説します。

資産や収入に関する資料の開示を求める

まずは相手に対して、収入や資産を証明する書類の提出を求めましょう。具体的には以下のような資料です。

源泉徴収票や給与明細書は、相手の年収や月収を把握する上で最も信頼性の高い資料です。これらの書類を確認すれば、「収入がない」という主張が虚偽かどうかすぐに判明します。預金通帳の写しも重要で、定期的な収入の有無や貯蓄額を確認できます。

さらに、確定申告書の控えがあれば、副業収入や不動産収入なども把握できます。クレジットカードの利用明細を見れば、実際の生活水準も推測可能です。高額な買い物や外食を繰り返していれば、「お金がない」という主張には矛盾が生じます。

相手がこれらの資料提出を拒否する場合、それ自体が支払い能力を隠している証拠になる可能性があります。「プライバシーだから」と拒否されても、慰謝料請求の正当性を主張し、粘り強く交渉することが大切です。

勤務先や副収入を調査する

相手が資料提出を拒否した場合、独自に調査を行う必要があります。まず勤務先の確認から始めましょう。

SNSは貴重な情報源です。FacebookやInstagram、LinkedInなどで勤務先情報を公開している人は多く、会社名や役職が判明することもあります。投稿内容から生活水準も推測できるでしょう。高級レストランでの食事や旅行の写真が頻繁に投稿されていれば、経済的余裕があることは明らかです。

本業以外の収入源も見逃せません。最近は副業を持つ人が増えており、投資や不動産収入、ネットビジネスなどで収入を得ているケースもあります。相手の知人や共通の知り合いから情報を得られる場合もあるでしょう。

ただし、調査は合法的な範囲内で行う必要があります。違法な手段での情報収集は、逆にあなたが訴えられるリスクがあるため注意が必要です。

財産開示請求など法的手段を活用する

任意での資料提出を拒否された場合、法的手段を検討することになります。その代表的なものが財産開示請求です。

財産開示請求は、裁判所を通じて相手の財産状況を開示させる制度です。2020年の民事執行法改正により、この制度はより実効性のあるものになりました。虚偽の陳述や正当な理由のない不出頭には刑事罰が科されるようになったため、相手も真剣に対応せざるを得ません。

また、弁護士会照会制度も有効な手段です。これは弁護士が職務上必要な情報を官公署や企業から取得できる制度で、相手の勤務先や預金口座の情報などを調査できます。ただし、この制度を利用するには弁護士への依頼が必要です。

裁判所の調査嘱託という方法もあります。訴訟を提起した後、裁判所に申し立てて、金融機関などに相手の財産調査を依頼してもらう制度です。強制力はありませんが、裁判所からの依頼ということで、多くの機関が協力してくれます。

これらの法的手段を駆使すれば、相手が隠している財産を発見できる可能性は十分にあります。

支払い能力がないと言われた時の現実的な対処法

調査の結果、相手に本当に十分な支払い能力がないことが判明した場合でも、諦める必要はありません。現実的な解決策はいくつも存在します。

慰謝料の減額や分割払いに応じる

相手の経済状況に応じて、慰謝料額を現実的な金額に調整することは、実は賢明な選択肢です。例えば、当初300万円を請求していたとしても、相手の月収が20万円程度で貯蓄もほとんどない場合、全額を一括で回収するのは現実的ではありません。

このような場合、150万円に減額する代わりに確実に支払ってもらう、あるいは月3万円の50回払いといった長期分割を認めるなど、柔軟な対応を検討しましょう。「少しでも回収できる」ことを優先すべきです。

分割払いを認める際は、必ず示談書を作成し、できれば公正証書にしておくことが重要です。公正証書があれば、相手が支払いを滞納した場合、裁判を経ずに強制執行が可能になります。また、連帯保証人を立ててもらうことも検討しましょう。

示談書には、支払いが滞った場合の遅延損害金や、残額の一括請求条項も盛り込んでおきます。これにより、相手に支払いを継続させるプレッシャーをかけることができます。

親族などに立て替えを依頼してもらう

不倫相手本人に支払い能力がなくても、その親族には経済力がある場合があります。特に相手が若い場合や、実家が裕福な場合は、親に援助を求めることも現実的な選択肢です。

法的には、親には子供の不法行為に対する責任はありません。しかし、道義的責任を感じて立て替えてくれるケースは意外と多いものです。「息子(娘)の不始末で申し訳ない」と、親が肩代わりを申し出ることもあります。

親族への相談を促す際は、相手のプライドに配慮することも大切です。「あなたの将来のためにも、きちんと清算した方がいい」「親御さんに相談して、一度きれいに解決しましょう」といった言い方で、前向きな解決を促しましょう。

ただし、親族への直接の請求や脅迫めいた行為は避けてください。あくまで相手本人を通じて、援助を求めてもらうという形を取ることが重要です。

配偶者に対して慰謝料を請求する

不倫は共同不法行為であり、配偶者と不倫相手の両方に慰謝料を請求できます。不倫相手に支払い能力がない場合、配偶者への請求に重点を移すことも検討すべきです。

配偶者は家計を共にしているため、一般的に不倫相手よりも経済力があることが多いです。また、離婚する場合は財産分与や養育費の問題もあるため、まとめて交渉することで有利な条件を引き出せる可能性があります。

ただし、配偶者への請求には注意点もあります。婚姻関係を継続する場合、配偶者から受け取った慰謝料は実質的に家計から出ることになります。そのため、離婚しない場合は配偶者への請求を控え、不倫相手への請求に集中する方が合理的なケースもあります。

配偶者と不倫相手の両方に請求する場合、それぞれの責任割合を考慮する必要があります。一般的には、既婚者である配偶者の方が責任が重いとされることが多く、7:3や6:4といった割合で請求額を配分することもあります。

金銭以外の解決策を検討する選択肢

慰謝料の回収が困難な場合、金銭以外の解決策を模索することも重要です。精神的な満足や将来の安心を得られる方法もあります。

誠実な謝罪と再発防止の約束を求める

金銭的な補償が得られなくても、相手から誠実な謝罪を受けることで、ある程度の精神的な区切りをつけられることがあります。単なる口約束ではなく、謝罪文を書面で提出してもらうことが大切です。

謝罪文には、不倫の事実を認めること、あなたに与えた精神的苦痛を理解していること、深く反省していること、そして二度と同じ過ちを繰り返さないことを明記してもらいます。この謝罪文は、後々の証拠としても重要な意味を持ちます。

さらに、具体的な再発防止策も約束してもらいましょう。例えば、配偶者との接触を一切断つこと、SNSでのつながりも削除すること、職場が同じ場合は異動や転職を検討することなど、具体的な行動を明記します。

相手の職場や親族に不倫の事実を知らせないことと引き換えに、これらの条件を受け入れてもらうという交渉も可能です。ただし、脅迫にならないよう、慎重に進める必要があります。

違約金条項を設定した合意書を作成する

現時点で慰謝料を回収できなくても、将来に備えた合意書を作成することで、リスクヘッジが可能です。

例えば、「今回は慰謝料の支払いを免除するが、今後配偶者と接触した場合は違約金として100万円を支払う」といった条項を設定します。これにより、相手に強い抑止力を与えることができます。

また、「将来、経済状況が改善した場合(年収が○○万円を超えた場合など)には、改めて慰謝料の支払いについて協議する」という条項を入れることも可能です。相手が出世したり、転職で収入が増えたりした場合に備えられます。

合意書には、定期的な収入報告義務を課すこともできます。例えば、年に1回、源泉徴収票のコピーを提出させることで、相手の経済状況を把握し続けられます。

こうした合意書は、できる限り公正証書にしておくことをお勧めします。公正証書であれば、違反があった場合にスムーズな法的措置が取れます。

強制執行による慰謝料回収の方法

話し合いでの解決が困難な場合、最終手段として強制執行による回収を検討することになります。しかし、この方法にはメリットとデメリットの両面があることを理解しておく必要があります。

債務名義を取得して財産を差し押さえる

強制執行を行うためには、まず「債務名義」を取得する必要があります。債務名義とは、慰謝料の支払い義務を公的に証明する書類のことです。

債務名義には、判決、和解調書、調停調書、公正証書(執行認諾文言付き)などがあります。最も一般的なのは、裁判所で訴訟を起こして判決を得る方法です。不倫の証拠が明確であれば、勝訴の可能性は高いでしょう。

債務名義を取得したら、次は相手の財産を特定します。給与、預金口座、不動産、車、生命保険の解約返戻金など、差し押さえ可能な財産は多岐にわたります。

給与の差し押さえは特に有効で、手取り額の4分の1まで(手取りが44万円を超える場合は33万円を超える部分全額)を差し押さえることができます。勤務先が判明していれば、確実に回収できる方法です。

預金口座の差し押さえも効果的ですが、どの銀行のどの支店に口座があるかを特定する必要があります。2020年の法改正により、裁判所を通じて金融機関に照会できるようになったため、以前より容易になりました。

強制執行のデメリットと限界

強制執行は確実な回収方法に見えますが、実はいくつもの落とし穴があります。

まず、費用の問題です。訴訟費用、弁護士費用、執行費用など、トータルで数十万円かかることも珍しくありません。回収できる金額がそれを下回る場合、赤字になってしまいます。

時間も相当かかります。訴訟から判決まで半年から1年、その後の強制執行手続きにもさらに時間を要します。その間、精神的な負担も続きます。

そして最大の問題は、相手に本当に財産がない場合、強制執行しても回収できないということです。無職で預金もなく、差し押さえる財産が何もない相手からは、たとえ判決を得ても1円も回収できません。

また、相手が財産を隠したり、名義を変更したりする可能性もあります。強制執行を察知して、預金を引き出したり、退職したりするケースも実際にあります。

さらに、強制執行は相手との関係を完全に断ち切ることになります。将来的な和解の可能性もなくなり、恨みを買うリスクもあります。子供がいる場合など、完全に縁を切れない関係では慎重な判断が必要です。

弁護士に相談するメリットと注意点

慰謝料請求で行き詰まったとき、弁護士への相談は有力な選択肢です。専門家の力を借りることで、解決への道が開ける可能性があります。

専門的なアドバイスと回収見通しが得られる

弁護士に相談する最大のメリットは、あなたのケースに即した具体的なアドバイスを受けられることです。

経験豊富な弁護士なら、相手の「お金がない」という主張が本当かどうか、見抜く術を持っています。過去の類似案件から、どのような調査方法が有効か、どの程度の金額なら回収可能かを判断してくれます。

弁護士は交渉のプロでもあります。あなたが直接交渉するよりも、弁護士が入ることで相手の態度が変わることは珍しくありません。「弁護士が出てきた」というプレッシャーで、急に支払いに応じるケースもあります。

また、先述した弁護士会照会制度を使えば、個人では調査できない情報も入手可能です。相手の勤務先、収入、預金口座などを合法的に調査し、隠し財産を発見できる可能性があります。

法的手続きについても、素人では難しい書類作成や手続きを代行してもらえます。訴訟になった場合も、証拠の整理から法廷での弁論まで、全面的にサポートしてくれます。

そして何より、精神的な支えになってくれることも大きなメリットです。不倫問題は感情的になりやすく、冷静な判断が難しくなります。弁護士という第三者が入ることで、客観的な視点を保ちながら問題解決に取り組めます。

自己破産や生活保護受給者への請求リスク

一方で、弁護士に依頼しても解決が困難なケースもあることを知っておく必要があります。

相手が自己破産を申し立てた場合、慰謝料債権も免責の対象となる可能性があります。ただし、「悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権」は非免責債権とされているため、不倫慰謝料が免責されるかどうかはケースバイケースです。しかし、実務上は免責されることが多いのが現実です。

生活保護受給者への請求も実質的に困難です。生活保護費は差し押さえ禁止財産であり、強制執行ができません。また、生活保護を受けている時点で、他に差し押さえ可能な財産もないと考えられます。

このような相手に対して無理に請求を続けても、弁護士費用だけがかさみ、結果的に損をする可能性があります。優秀な弁護士なら、こうしたリスクも含めて正直に説明し、「追及しても費用倒れになる」と判断した場合は、その旨をアドバイスしてくれるはずです。

弁護士費用も考慮する必要があります。着手金で20~30万円、成功報酬で回収額の20~30%というのが相場です。回収見込み額と比較して、費用対効果を冷静に判断しましょう。

ただし、多くの弁護士事務所では初回相談を無料または低額で行っています。まずは相談だけでもしてみて、専門家の意見を聞いてから判断することをお勧めします。

まとめ

不倫相手から「お金がないから慰謝料は払えない」と言われても、すぐに諦める必要はありません。本記事で紹介した様々な方法を駆使すれば、何らかの形で解決への道を見出せる可能性があります。

まず重要なのは、相手の主張を鵜呑みにせず、本当に支払い能力がないのか徹底的に調査することです。収入証明書の開示要求、SNSでの情報収集、弁護士会照会制度の活用など、合法的な範囲で可能な限りの調査を行いましょう。

そして、相手の経済状況に応じて柔軟に対応することも大切です。減額や分割払い、親族への援助依頼、配偶者への請求など、現実的な解決策を模索してください。金銭的な補償が困難な場合でも、誠実な謝罪や再発防止の約束、違約金条項付きの合意書など、将来に向けた対策を講じることができます。

強制執行という最終手段もありますが、費用と時間、そして回収可能性を慎重に検討する必要があります。場合によっては、部分的な回収で妥協する方が賢明な選択となることもあるでしょう。

そして、一人で悩まず、専門家の力を借りることも検討してください。弁護士は法律のプロとして、あなたの状況に最適な解決策を提案してくれます。

不倫による精神的苦痛は計り知れません。だからこそ、正当な権利である慰謝料請求を簡単に諦めてはいけません。冷静に、そして戦略的に行動することで、必ず何らかの解決策が見つかるはずです。あなたの権利を守るために、今できることから始めてみてください。

藤上 礼子のイメージ
ブログ編集者
藤上 礼子
藤上礼子弁護士は、2016年より当事務所で離婚問題に特化した法律サービスを提供しています。約9年にわたる豊富な経験を活かし、依頼者一人ひとりの状況に真摯に向き合い、最適な解決策を導き出すことを信条としています。ブログ編集者としても、法律知識をわかりやすくお伝えし、離婚に悩む方々の不安を少しでも和らげたいと活動中です。
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